企業から仕事を受注する営業のコツ|福祉事業所の営業術
福祉事業所が企業から作業を受注するための営業のコツを行政書士が解説。ターゲット選定、提案資料の作り方、できる作業の見せ方、品質・納期の担保、試験発注からの拡大、優先調達推進法や共同受注窓口の活用まで実務目線で整理します。
結論:企業営業は「作業内容の翻訳」と「小さく試してもらうこと」から始まる
福祉事業所の営業がうまくいかない最大の理由は、伝え方が「福祉の言葉」のままだからです。企業の担当者が知りたいのは、障害福祉の制度ではなく「何を・どれくらいの品質で・いつまでに・いくらでやってくれるのか」です。
そのうえで、いきなり大口の継続受注を狙わないことが重要です。少量の試験発注(お試しの小ロット発注)から始め、品質と納期を守った実績を積み重ねて取引を広げていく。この順番が現実的です。
制度面では、国や地方公共団体からの受注については障害者優先調達推進法(正式名称「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」)という後押しがあります。ただし、この法律の調達義務の対象は国等・地方公共団体であり、民間企業は義務の対象ではありません(厚生労働省「障害者優先調達推進法が施行されました」)。企業営業では法律を根拠にするのではなく、仕事としての価値で選ばれる必要があります。
なお、本記事は営業活動の一般的な進め方の解説であり、受注や工賃向上を保証するものではありません。
まず押さえたい制度の前提
障害者優先調達推進法は「公共」向けの追い風
障害者優先調達推進法は平成24年6月27日に公布され、平成25年(2013年)4月1日から施行されています。国等の機関、独立行政法人、地方公共団体、地方独立行政法人に対し、障害者就労施設等からの物品・役務の優先的な調達を推進するため、毎年度の調達方針の策定と実績の公表を求める仕組みです(厚生労働省)。
対象となる「障害者就労施設等」には、就労継続支援A型・B型、就労移行支援事業所のほか、在宅就業障害者や在宅就業支援団体が含まれます(厚生労働省パンフレット「その仕事、障害者就労施設に発注できませんか?」)。
調達規模も伸びています。厚生労働省の公表によれば、令和5年度の国等・地方公共団体等の調達実績は約2,351.8億円で、前年度比6.1%増、法施行以降10年連続で過去最高を更新したとされています。令和6年度分についても厚生労働省サイトで公表されていますが、本記事執筆時点で総額の確認が取れていないため「要確認」とします(厚生労働省「障害者優先調達推進法における調達方針・調達実績について」)。
ポイントは、この法律が企業には及ばないことです。企業への営業は、あくまで通常の商取引として組み立てます。
共同受注窓口という選択肢
共同受注窓口とは、複数の障害者就労施設等をとりまとめ、受注の確保や発注者との調整を行う組織です(厚生労働省パンフレット)。1事業所では時間・組織・人手の制約から発注者への情報提供が難しいため、情報を集約して仲介する役割が期待されています。
自事業所単独では受けきれない量の仕事や、複数事業所での分担が必要な案件は、窓口経由のほうが現実的な場合があります。窓口の有無・名称・利用条件は都道府県や地域によって異なりますので、所在自治体の障害福祉主管課にご確認ください(自治体差あり)。
工賃向上計画とのつながり
就労継続支援B型では、事業所ごとに工賃向上計画を策定し、これに基づく取組が求められています。現行の計画期間は令和6~8年度とされています。
厚生労働省の公表によると、令和6年度のB型の平均工賃月額は24,141円です。前年度(令和5年度・修正後)の22,649円から上昇していますが、これは令和6年度報酬改定で平均工賃月額の算定方法が変更された(分母が「工賃支払対象者数」から「一日当たりの平均利用者数」へ)影響を含むとされており、実額の伸びとは切り分けて理解する必要があります(厚生労働省「平均工賃(賃金)月額の実績について」「令和6年度工賃(賃金)の実績について」)。
いずれにせよ、計画を作っても受注がなければ工賃は動きません。営業は工賃向上の実行部分そのものです。
STEP1:ターゲット企業を選ぶ
やみくもに数を当たるより、受注につながりやすい条件で絞るほうが効率的です。
・地理的に近い(納品・回収のコストが低い/担当者が現場を見に来られる)
・作業に波がある業種(繁忙期の外注ニーズがある)
・小ロット・多品種の作業が発生する業種(大手外注先が嫌がる領域)
・すでに内職・軽作業を外注している企業(発注の意思決定プロセスが既にある)
・自事業所の設備・人員で確実にこなせる作業がある企業
具体的には、製造業の袋詰め・検品・組立、印刷会社の封入・丁合、EC事業者の梱包・シール貼り、飲食・食品会社の下処理や包装、不動産・清掃会社の軽清掃などが、福祉事業所の受注実績が多い領域です。
「切り出せる作業」を想像して当たる
企業側は「福祉事業所に頼める仕事がある」と気づいていないことがほとんどです。営業では「御社のこの工程だけ切り出せませんか」と、こちらから具体案を出すほうが話が進みます。社員が本業の合間にやっている単純作業、季節業務、社内で滞留している作業などが狙い目です。
STEP2:提案資料は「発注担当者の稟議」を通す形に
提案資料は事業所紹介ではなく、発注判断の材料としてまとめます。盛り込みたい項目は次のとおりです。
・できる作業の一覧(工程名・単位・1日あたりの処理可能量)
・品質管理の方法(検品体制、ダブルチェック、不良時の対応)
・納期の目安とリードタイム
・単価の考え方(数量帯別、または時間単価)
・作業スペース・設備の写真(実際の作業風景)
・機密保持の体制(NDA締結可否、個人情報を扱う場合の管理方法)
・連絡窓口と担当者名、連絡がつく時間帯
・過去の受注実績(企業名は許諾がある場合のみ)
「障害者が作っています」を前面に出しすぎない
配慮は不要という意味ではありません。ただし、企業が発注を継続する理由は最終的に「品質・納期・価格」です。福祉の文脈は補足情報として添える程度に留め、まずは取引先として信頼できることを示すほうが結果につながりやすい、というのが現場の実感です。
写真とサンプルが最強の資料
言葉で「丁寧に検品します」と書くより、作業風景の写真1枚とサンプル品1つのほうが説得力があります。訪問時にサンプルを持参し、その場で触ってもらうのが有効です。
STEP3:できる作業の見せ方を工夫する
「何ができますか」と聞かれて「軽作業なら何でも」と答えるのは、実は最も受注から遠い回答です。企業側は具体的な工程に落とし込めず、判断できません。
作業を「工程単位」で棚卸しする
自事業所の作業を、次の粒度で書き出します。
・工程名(例:シール貼り/封入/検品/計量/袋詰め/組立/梱包)
・扱えるサイズ・重量の範囲
・1日あたりの標準処理数(利用者数と実測値から算出)
・必要な設備(作業台、シーラー、はかり、台車 など)
・対応できない条件(重量物、要冷蔵、危険物、極端な短納期 など)
「できないこと」を明示することは、信頼を落とすどころか、企業にとっては安心材料になります。受けられない仕事を受けて納期を落とすことが、最も取引を失うパターンです。
利用者の特性を強みとして翻訳する
集中力が高い方が多い、同じ精度で反復できる、といった特性は、検品・仕分け・計数といった工程で実務上の強みになります。ただし、個々の利用者の障害特性や体調に関する記載は行わず、あくまで事業所の作業能力として表現します。
STEP4:品質と納期を担保する仕組みをつくる
企業が福祉事業所への発注をためらう主因は、多くの場合「品質・納期に不安がある」です。ここを仕組みで示せると、営業の通過率が変わります。
・検品を工程として組み込む(作業者と別の職員が最終確認)
・不良率を記録し、数値で報告する
・納期に対して社内締切を前倒しで設定する(バッファを持つ)
・利用者の欠席や体調変動を前提にした余力設計にする
・トラブル時の連絡ルール(発生から◯時間以内に一次連絡 など)を決めておく
「安さ」で勝負しない
単価を下げれば受注は取りやすくなりますが、工賃向上という目的から遠ざかります。安さではなく「小ロットに対応できる」「短い納期に対応できる」「柔軟に工程を変えられる」といった、大手外注先が対応しにくい部分で差別化するほうが持続します。
STEP5:試験発注から取引を広げる
初回から大口を狙わず、「まず100個だけ」「1週間分だけ」といった試験発注をお願いするのが定石です。
1.試験発注を依頼する(数量・納期・単価を明確に)
2.約束した品質と納期を必ず守る(ここが最重要)
3.結果を報告する(処理数、不良数、所要時間、改善提案)
4.継続発注の可否と、増量の条件を確認する
5.別工程・別部署への横展開を提案する
3の「報告」を行う事業所は多くありません。数値を添えて報告するだけで、担当者の社内説明が容易になり、継続につながりやすくなります。
CSR・SDGs・法定雇用率との関係を正しく理解する
「発注すれば雇用率にカウントされる」は誤解
企業の担当者から「発注すると障害者雇用率に算入できるのか」と聞かれることがあります。ここは正確に説明する必要があります。
障害者雇用率制度における法定雇用率は、令和8年(2026年)7月から民間企業で2.7%に引き上げられ、対象事業主の範囲も従業員37.5人以上に拡大されています(厚生労働省)。
一方、在宅就業障害者支援制度は、在宅就業障害者または在宅就業支援団体に仕事を発注し対価を支払った事業主に対し、障害者雇用納付金制度において在宅就業障害者特例調整金等を支給する仕組みです。特例調整金は、調整額21,000円に「当該年度の支払総額÷評価額350,000円」で得た数を乗じた額とされています(厚生労働省・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)。
重要なのは、これは調整金等の支給制度であって、発注によって法定雇用率の算定対象となる障害者数が増えるわけではないという点です。「発注すれば雇用率が満たせる」という説明は誤りですので、営業トークで使ってはいけません。制度の適用可否・手続の詳細は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)へご確認ください。
CSR・SDGsは「決め手」ではなく「後押し」
サステナビリティ報告や調達方針の中に、社会的配慮に基づく調達を掲げる企業は増えています。ただし、これは発注の決め手というより、品質・価格の条件が近い場合に背中を押す要素です。営業では、まず実務要件を満たしたうえで、副次的な価値として触れる程度が適切です。
よくある失敗パターン
・パンフレットを置いてくるだけで、具体的な作業提案がない
・「福祉施設なので安くできます」と価格だけを訴求する
・できない作業まで受けてしまい、納期遅延で信頼を失う
・担当者が異動した後、関係が途切れる(複数の窓口を持たない)
・見積の根拠が曖昧で、社内稟議に載せられない
・一度断られたら二度と接触しない(時期が変われば状況も変わります)
よくある質問(FAQ)
Q1. 営業の経験がない職員でも企業営業はできますか?
できます。必要なのは営業テクニックより、「できる作業」「処理量」「納期」「単価」を正確に答えられる準備です。工程の棚卸しと、写真・サンプルの用意から始めてください。
Q2. 単価はどう決めればよいですか?
一般的には、作業時間×想定工賃水準に必要経費を加えて算出し、市場相場と突き合わせて調整します。相場は作業種別・地域で大きく異なるため、共同受注窓口や近隣事業所の情報を参考にするのが現実的です。安易な安値受注は工賃向上計画の目的に反します。
Q3. 障害者優先調達推進法を使えば企業からも受注しやすくなりますか?
いいえ。同法の調達義務の対象は国等・地方公共団体・独立行政法人等であり、民間企業は対象外です。企業営業では、通常の取引条件で選ばれる必要があります。
Q4. 共同受注窓口はどこにありますか?
窓口の設置状況・名称・利用条件は自治体や地域によって異なります。都道府県の障害福祉主管課、または地域の社会福祉協議会・関係団体にお問い合わせください(自治体差あり)。
Q5. 断られたときはどうすればよいですか?
断りの理由を1つだけ聞かせてもらってください。「今は外注予定がない」なら時期の問題、「量が足りない」なら能力の問題、「品質が不安」なら見せ方の問題と、次の打ち手が変わります。前者2つは、繁忙期の前に再度ご連絡する価値があります。
まとめ
企業への営業は、特別な話法ではなく、(1) ターゲットを絞る、(2) 発注判断できる資料を作る、(3) できる作業を工程単位で示す、(4) 品質・納期を仕組みで担保する、(5) 試験発注から広げる、という順番の積み重ねです。
制度面では、公共向けには障害者優先調達推進法という後押しがあり、共同受注窓口という受け皿もあります。一方、民間企業向けにはそうした義務規定はなく、取引先として選ばれる力が問われます。だからこそ、工程の棚卸しと実績の可視化という地道な準備が効いてきます。
生産活動の「仕事づくり」でお困りの事業所さまへ
行政書士 結和法務事務所では、生産活動の“仕事づくり”(受注先の開拓)を支援する営業代行サービスをご提供しています。日々の支援業務に追われて営業まで手が回らない、というご相談は少なくありません。
「営業する時間がない」「仕事が足りない」とお悩みの事業所さまは、まずは無料相談でご相談ください。事業所の状況をお伺いしたうえで、できること・できないことを率直にお伝えします。
※本記事は制度および営業実務の一般的な解説であり、受注や工賃向上の成果を保証するものではありません。制度の詳細・最新の数値は、厚生労働省および各自治体の公表資料をご確認ください。共同受注窓口の有無や運用は自治体によって異なります。
