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就労継続支援A型の経営改善計画|生産活動収支の考え方と提出ルール

執筆者の写真: 和久 竹村
和久 竹村
7月23日
読了時間: 8分

就労継続支援A型の生産活動収支が賃金総額を下回ると経営改善計画の提出対象になります。指定基準第192条第2項の原則、提出後1年・2年・3年目以降の流れ、令和6年度報酬改定によるスコアの厳格化まで、一次情報をもとに行政書士が整理します。


結論


就労継続支援A型(以下「A型」)は、生産活動の収支が利用者に支払う賃金の総額以上となるようにしなければならない、というのが指定基準上の原則です。これを下回ると、指定権者(都道府県・指定都市・中核市)から経営改善計画書の提出を求められ、原則1年間の改善猶予期間に入ります。令和6年度障害福祉サービス等報酬改定では、スコア方式の「生産活動」が減点もありうる評価に変わり、「経営改善計画」という減点項目も新設されました。赤字は今や、指定基準の問題であると同時に、基本報酬そのものを押し下げる問題です。


そもそも「生産活動収支」とは何か


根拠となる指定基準の条文


A型の収支ルールは、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年厚生労働省令第171号。以下「指定基準」)第192条第2項にあります。同項は、生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額が、利用者に支払う賃金の総額以上となるようにしなければならない、と定めています。


ポイントは、これが加算の要件ではなく「指定基準(運営基準)」だという点です。満たさない状態が続けば、勧告・命令、さらには指定の取消し・停止の検討対象になり得ます。


計算式はシンプル、しかし前提の会計処理が重要


生産活動収支=生産活動に係る事業の収入 - 生産活動に係る事業に必要な経費


式自体は単純で、難しいのは「どこまでが生産活動の収入・経費か」という切り分けです。ここで効いてくるのが、就労支援事業の会計を区分して処理するルール、すなわち「就労支援の事業の会計処理の基準」(平成18年10月2日 社援発第1002001号)で、これに基づき就労支援事業別事業活動明細書などを作成します。


重要なのは、給付費(訓練等給付費)は生産活動の収入ではないということです。「給付費を含めれば黒字だから問題ない」という理解は誤りで、あくまで生産活動そのものの収支と賃金総額とを比べます。


比較対象となる「賃金総額」は、雇用契約に基づき利用者に支払った賃金の総額です。A型は最低賃金法を含む労働関係法令が適用される雇用の場ですので、最低賃金を下回る設計はそもそも認められません。賃金の範囲や算定の細部は自治体の手引きで示され方が異なる場合があります。


生産活動収支が賃金総額を下回った場合の取扱い


経営改善計画書の提出


指定権者は、実地指導または就労支援事業別事業活動明細書等の提出により実態を把握し、指定基準第192条第2項を満たさない場合には、経営改善計画書等を提出させることとされています(「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について」令和6年3月29日障障発0329第7号による改正後のもの)。様式は、同通知の別紙様式2-1(経営改善計画書)および別紙様式2-2(計画期間中の具体的改善策と実施時期等)を参考とする扱いです。


提出期限や様式名(別紙様式1・2としている県もあります)、添付書類には自治体差があります。たとえば福岡県は「決算後4か月以内」(4月末決算なら8月末まで)と案内しています。ご自身の指定権者の手引きで期限をご確認ください。


なお、生産設備による大型の設備投資を行った場合には、直ちに提出を求めるのではなく、指定権者が状況を把握し、生産活動収支等を勘案して提出の可否を判断することとされています。


1年目・2年目・3年目以降の流れ


・1年目:計画の始期から原則1年間が猶予期間です。1年経過後、実行状況と経営改善状況が確認されます。

・2年目:計画終期に基準を満たさない場合でも、(1)収入額が増加または必要経費が減少し今後の収益改善が見込まれると指定権者が認める、(2)生産活動の収入額が賃金総額以上である、(3)提出済み計画に基づく改善を具体的に実施し今後の改善が見込まれると認められる、のいずれかに該当すれば、更に1年間の計画作成が認められます。

・3年目以降:今後の改善が見込まれると認められ、かつ「計画期間中に収益改善が認められる」「利用者の平均労働時間が長くなっている」「賃金総額が増えている」のいずれかを満たすときは、追加で計画書を作成させることができます。


改善の見込みがない場合、または計画の結果として基準を満たさない場合には、勧告・命令の措置を講じ、指定の取消し又は停止を検討することとされています。提出を求められたのに計画書を作成しない場合や、記載内容に虚偽がある場合も同様です。


「やってはいけない収支改善」が明示されています


収益改善のために利用者の退所や賃金の引下げ等を不当に行うことは、A型事業の趣旨に反するものとされています。提出された計画がこの趣旨に照らして適正でない場合、指定権者は再提出を求めます。さらに、計画実施後に収益改善の要因としてこれに類するものが認められる場合にも、収益改善があったものと認めないこととされています。


令和6年度報酬改定での厳格化


「生産活動」は減点もある評価に


A型の基本報酬は、スコア(200点満点)の区分で決まります。令和6年度改定では評価項目が見直され、「生産活動」の配点が引き上げられるとともに、赤字は減点となりました。改定後の配点は、過去3年度(前年度・前々年度・前々々年度)の収支により次のとおりです。


・過去3年の収支がそれぞれ各年度の賃金総額以上:60点

・前年度・前々年度がいずれも賃金総額以上:50点

・前年度のみ賃金総額以上:40点

・前々年度のみ賃金総額以上:20点

・前年度・前々年度がいずれも賃金総額未満:△10点

・過去3年いずれも賃金総額未満:△20点


改定前は前年度・前々年度の2年度で評価し、5~40点の範囲でマイナスはありませんでした。影響は小さくありません。


「経営改善計画」という減点項目の新設


・提出を求められていない、または求められており指定された期日までに提出している:0点

・期限内に提出していない:△50点


つまり、提出しても加点はなく、出さなければ200点満点から一気に50点が引かれます。生産活動の△20点と重なれば合計70点の目減りとなり、基本報酬の区分が数段階下がる可能性があります。期限管理そのものが経営課題だとお考えください。


なお、指定時期と会計年度の組み合わせによっては、評価対象年度の数え方に例外があります(令和6年度報酬改定等に関するQ&A VOL.8)。


数字が示す実態


厚生労働省の調べでは、令和5年3月末時点で、経営状況を把握した3,715事業所のうち生産活動の収益が賃金総額を下回る事業所は1,882事業所(50.7%)、うち経営改善計画書の提出は1,690事業所(提出率89.8%)、前年も基準未達だった事業所は1,507事業所(80.1%)でした。赤字は例外ではなく、かつ固定化しやすいことがうかがえます。


収支改善を考えるときの実務的な視点


制度上の打ち手は、収入を増やすか、経費を見直すかしかありません。留意事項通知が「利用者の退所や賃金の引下げによる改善」を否定している以上、実質的な主戦場は収入側、すなわち「仕事を増やすこと」になります。


収入側で確認したいこと


・単価の低い受注に依存していないか(下請的な軽作業のみで構成されていないか)

・受注先が1~2社に偏っていないか(1社の減産で収支が崩れる構造か)

・生産能力に対して受注量が足りているか(手待ち時間が発生していないか)

・施設外就労や地域の企業・官公庁との連携で、働く場を確保できないか


スコアには「地域連携活動」(地域の事業者と連携した付加価値の高い商品開発、企業や官公庁等での生産活動等を行い結果を公表:10点)という項目もあり、収支改善の取組がスコアにも結びつく構造です。経費側では、生産活動の経費と支援側の経費の区分が適正か、原価計算でどの仕事が赤字かを把握できているかを確認します。


よくある質問(FAQ)


Q1. 給付費を含めれば黒字です。それでも経営改善計画の提出は必要ですか。


A. 指定基準第192条第2項が比べているのは「生産活動に係る事業の収入から必要経費を控除した額」と「賃金の総額」です。給付費は生産活動の収入ではないため、生産活動収支が賃金総額を下回っていれば提出対象になります。


Q2. 経営改善計画は何年まで出し続けられますか。


A. 原則1年、要件を満たせば2年目、さらに3年目以降も認められる場合がありますが、「何年までなら大丈夫」という上限があるわけではありません。改善の見込みがない場合や計画の結果基準を満たさない場合には、勧告・命令、指定の取消し又は停止の検討対象とされています。


Q3. 提出期限はいつですか。


A. 全国一律の期限はなく、指定権者ごとに運用されています。たとえば福岡県は決算後4か月以内としています。スコアでは「指定された期日までに提出していない」場合に△50点となるため、まずは自所の指定権者が定める期日をご確認ください。


Q4. 赤字を解消するために、生産性の低い利用者に退所していただくのは有効ですか。


A. 認められません。留意事項通知は、収益改善のために利用者の退所や賃金の引下げ等を不当に行うことはA型事業の趣旨に反するとし、そうした要因による収益改善は「収益改善があったものと認めない」としています。


※本記事は、指定基準(平成18年厚生労働省令第171号)、令和6年3月29日障障発0329第7号による改正後の留意事項通知、令和6年度報酬改定関係資料・Q&A、各自治体の公表資料をもとに2026年7月時点で整理したものです。取扱いには自治体差があり、告示・通知も改正されます。実際の判断にあたっては、最新の告示・通知および指定権者の手引きで必ずご確認ください。


生産活動の「仕事づくり」からご一緒します


ここまで整理したとおり、A型の収支改善は、利用者の退所や賃金の引下げでは解決できない構造になっています。残る道は、生産活動そのものの受注を増やし、単価を上げていくこと。とはいえ、支援業務と並行して新規の受注先を開拓し続けるのは、現場にとって簡単なことではありません。


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