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虐待防止・身体拘束の未実施減算と委員会のつくり方

執筆者の写真: 和久 竹村
和久 竹村
7月8日
読了時間: 8分

結論:4つの措置が「一つでも欠ける」と減算対象になります


障害福祉サービスでは、令和6年度(2024年度)報酬改定により、虐待防止と身体拘束に関する減算が強化されました。具体的には「虐待防止措置未実施減算」が新設され、「身体拘束廃止未実施減算」も算定方法が見直されています。


いずれの減算も、(1)委員会の開催、(2)指針の整備、(3)研修の実施、(4)担当者・責任者の配置という一連の措置のうち、一つでも欠けると減算の対象になり得ます。「実際に虐待も身体拘束もしていない」事業所であっても、これらの体制が整っていなければ減算されるという点が最大の注意点です。


本記事では、障害福祉に特化した行政書士監修のもと、両減算の要件と、委員会をゼロから作る手順を整理します。なお、減算率や適用時期の細部は告示・通知および指定権者(都道府県・政令市・中核市など)の手引きによって取扱いが分かれる部分があるため、最終的には最新の告示・自治体の手引きで要確認としてください。


2つの減算の全体像


虐待防止措置未実施減算(令和6年度新設)


「虐待防止措置未実施減算(ぎゃくたいぼうしそちみじっしげんさん)」とは、障害者虐待の防止のために求められる措置を講じていない場合に適用される減算です。令和6年度報酬改定で新設されました。


減算率は所定単位数の1%とされ、原則としてすべての障害福祉サービスが対象です(トキタ行政書士事務所ほか各種解説による整理)。虐待防止に関する措置は令和4年度から義務化されていましたが、令和6年度からは「未実施なら減算」という形で担保が強化された、という位置づけです。


身体拘束廃止未実施減算(令和6年度で見直し)


「身体拘束廃止未実施減算(しんたいこうそくはいしみじっしげんさん)」とは、身体的拘束等の適正化を図るための措置を講じていない場合に適用される減算です。障害福祉では従来から減算の枠組みがありましたが、令和6年度報酬改定で算定方法が見直されました。


減算率は、施設系・居住系サービスで所定単位数の10%、訪問系・通所系サービスで所定単位数の1%とされています(各種解説による整理)。従来の「1日5単位」といった定額方式から、所定単位数に対する割合方式へと変更された点がポイントです。金額インパクトが大きいのは施設系・居住系である点に注意してください。


「していないのに減算」される理由


両減算に共通する重要な考え方は、「虐待・身体拘束を実際に行ったかどうか」ではなく、「適正化・防止のための体制を整えているかどうか」で判断されるという点です。実際に身体的拘束等を一切行っていない事業所であっても、委員会の開催・指針の整備・研修の実施といった措置がなされていなければ減算の対象になります。この点を誤解している事業所が少なくないため、まず体制整備を最優先で進める必要があります。


虐待防止のために必要な4つの措置


障害者虐待防止のために求められる主な措置は、次の4本柱で整理できます。


(1)虐待防止委員会の設置・開催


「虐待防止委員会」を設置し、定期的に開催します。障害福祉サービスの場合、開催頻度は年1回以上が目安とされ、直近1年以内に1回以上開催していることが確認できる状態にしておくことが重要です。委員会では、虐待の未然防止・早期発見・再発防止のための対策を検討します。委員会の結果は、従業者へ周知徹底することまでがセットです。


(2)虐待防止に関する研修の実施


従業者に対し、虐待防止のための研修を定期的に実施します。研修は「実施した」という記録(日時・内容・参加者)まで残しておく必要があります。


(3)虐待防止責任者の配置


虐待の防止等のための担当者(虐待防止責任者)を配置します。委員会・研修・相談対応の中心となる役割です。


(4)記録・周知の整備


委員会の議事録、研修記録、従業者への周知記録などを整備します。実地指導(実施指導)では、この「周知記録」や「チェックリストの実施記録」が抜けやすい項目として指摘されやすいため、意識して整えておきましょう。


身体拘束等適正化のために必要な措置


身体的拘束等の適正化についても、考え方は虐待防止と共通しています。


(1)身体拘束等適正化委員会の設置・開催


「身体拘束等適正化委員会(しんたいこうそくとうてきせいかいいんかい)」を設置し、定期的に開催します。障害福祉では開催頻度は年1回以上が目安とされています。委員会では、身体的拘束等の適正化のための方策や、やむを得ず実施した事案の検証などを行い、結果を従業者へ周知します。


なお、虐待防止委員会と身体拘束等適正化委員会は、目的が重なる部分もあるため、運用上は一体的に開催することも考えられます。ただし、それぞれ検討すべき事項が異なるため、議事録上でどちらの目的の検討かを明確にしておくと安心です。実際の運用可否は指定権者の手引きで確認してください。


(2)指針(ガイドライン)の整備


身体的拘束等の適正化のための指針を整備します。実地指導の現場では、この「指針が作成できていない」ケースが散見されるとされており、優先的に対応すべき項目です。指針には、身体的拘束等の適正化に関する基本的考え方や、やむを得ず実施する場合の手続き等を盛り込みます。


(3)研修の実施


従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施し、記録を残します。


(4)実施時の記録(3要件と態様・時間・理由)


身体的拘束等は原則禁止であり、やむを得ず行う場合には「切迫性・非代替性・一時性」の3要件を満たすことが求められます。実施した場合には、その態様・時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録しておく必要があります。


委員会をゼロから作る具体的な手順


ここでは、これから体制を整える事業所向けに、実務的な手順を整理します。


ステップ1:委員会の設置を決める


まず、虐待防止委員会・身体拘束等適正化委員会の構成メンバーを決めます。管理者、サービス管理責任者、現場職員、必要に応じて外部の視点(第三者)などを想定します。虐待防止責任者・身体拘束等適正化の担当者もあわせて選任します。


ステップ2:指針・様式を整備する


身体的拘束等の適正化のための指針を作成し、委員会の議事録様式、研修記録様式、周知記録様式、身体的拘束等の記録様式などをそろえます。厚生労働省が公表している「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」(令和6年7月改訂版)などの一次情報を参照すると、盛り込むべき内容の整理に役立ちます。


ステップ3:委員会を開催し、議事録を残す


定期的に委員会を開催します。議事録には、開催日・出席者・検討事項・決定事項を記載します。「開催したが記録がない」状態では、実地指導で未実施と判断されるおそれがあります。


ステップ4:研修を実施し、記録する


委員会での検討内容を踏まえ、従業者向けの研修を実施します。研修資料、参加者名簿、実施日を記録として残します。


ステップ5:全職員へ周知し、記録する


委員会の結果や指針の内容を全従業者に周知します。回覧・掲示・会議での共有など方法は問いませんが、「周知した記録」を必ず残してください。ここが抜けると、他の措置を整えていても指摘対象になりやすい部分です。


指定権者による取扱いの違いに注意


減算の細かな運用(対象サービスの範囲、委員会の開催頻度の具体的な数え方、記録の様式など)は、告示・通知に加えて指定権者(都道府県・政令指定都市・中核市など)の手引きやローカルルールによって取扱いが分かれることがあります。


本記事の減算率・開催頻度は、令和6年度報酬改定に関する各種解説等をもとに整理したものです。実際に自事業所へ適用される要件は、必ず最新の告示・通知および所在地の自治体の手引きで確認してください。数値や運用に不明点がある場合は、指定権者の障害福祉担当窓口へ照会するのが確実です。


よくある質問(FAQ)


Q1.身体拘束をまったく行っていなくても、委員会は必要ですか?


はい、必要です。身体拘束廃止未実施減算は「実際に拘束したか」ではなく「適正化のための措置を講じているか」で判断されます。委員会の開催・指針の整備・研修の実施が一つでも欠けると、拘束の有無にかかわらず減算対象になり得ます。


Q2.虐待防止委員会と身体拘束等適正化委員会は、まとめて開催してもよいですか?


目的が重なる部分があるため、一体的に開催すること自体は考えられます。ただし検討事項が異なるため、議事録でどちらの目的の検討かを明確に区別しておくと安心です。可否や運用の詳細は指定権者の手引きで確認してください。


Q3.委員会は年に何回開けばよいですか?


障害福祉サービスでは、いずれの委員会も年1回以上の開催が目安とされています。直近1年以内に1回以上開催した記録が確認できる状態にしておきましょう。ただし具体的な数え方は自治体の手引きで確認してください。


Q4.減算率はどのくらいですか?


各種解説による整理では、虐待防止措置未実施減算は所定単位数の1%、身体拘束廃止未実施減算は施設系・居住系で10%、訪問系・通所系で1%とされています。適用時期・対象サービス・率の細部は最新の告示・自治体の手引きで要確認としてください。


Q5.実地指導で特に指摘されやすいのはどこですか?


「委員会の周知記録がない」「指針が作成できていない」「研修は実施したが記録が残っていない」といった、記録面の不備が指摘されやすい傾向にあります。措置を「実施すること」と「記録に残すこと」をセットで運用してください。


まとめ


虐待防止措置未実施減算・身体拘束廃止未実施減算は、いずれも「委員会・指針・研修・記録」という体制整備を求めるものです。実際に虐待や身体拘束を行っていない事業所でも、体制が整っていなければ減算対象になり得る点に注意が必要です。


まずは委員会を設置し、指針をそろえ、研修を実施し、それぞれの記録と周知記録を残す——この基本の流れを固めることが、減算回避と利用者の権利擁護の両立につながります。減算率や適用の細部は指定権者によって取扱いが分かれるため、最新の告示・自治体の手引きでの確認を前提に進めてください。


体制整備の進め方や様式づくりでお困りの場合は、障害福祉を専門とする行政書士へご相談ください。

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