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生産活動でよくある失敗と対策|B型の工賃が伸びない7つの原因

執筆者の写真: 和久 竹村
和久 竹村
7月18日
読了時間: 13分

結論


工賃が伸びない原因の多くは、利用者さんの頑張り不足ではなく、事業所側の「仕事の選び方」と「数字の見方」にあります。指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第201条第1項は、就労継続支援B型(以下「B型」)の工賃を「生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額」と定めており、工賃は結局のところ「売上-経費」でしか出せない仕組みです。つまり、単価の安い仕事に依存し、原価を把握せず、受注先も広げないままでは、構造的に工賃は上がりません。逆に言えば、失敗しやすいポイントはかなり定型化しており、先に知っておけば避けられます。本記事では、厚生労働省の工賃実績や通知など一次情報を確認しながら、よくある7つの失敗とその対策を実務目線で整理します(会計処理や加算の細部は年度改定・自治体運用で異なるため、最新の通知と自治体の手引きで要確認です)。


まず押さえる:工賃のルールと全国水準


工賃は「生産活動収入-生産活動経費」


指定基準第201条は、B型について次のように定めています。


・第1項:利用者に、生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払わなければならない

・第2項:利用者それぞれに対し支払われる一月当たりの工賃の平均額は、三千円を下回ってはならない

・第3項:工賃の水準を高めるよう努めなければならない

・第4項:年度ごとに、工賃の目標水準を設定し、当該目標水準と前年度に支払われた工賃の平均額を利用者に通知するとともに、都道府県に報告しなければならない


なお就労継続支援A型(以下「A型」)については、同基準第192条第2項が「生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額が、利用者に支払う賃金の総額以上となるようにしなければならない」と定めています。A型・B型いずれも、生産活動の収支そのものが利用者への支払いの原資である、という点は共通です。


また「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について」(平成19年4月2日障障発第0402001号。最終改正:令和6年3月29日障障発0329第7号)は、工賃(賃金)の範囲を「工賃、賃金、給与、手当、賞与その他名称を問わず、事業者が利用者に支払うすべてのもの」と示しています。


全国平均工賃はどのくらいか


厚生労働省「令和6年度工賃(賃金)の実績について」によれば、B型事業所の平均工賃(月額)は24,141円(対前年比106.6%、18,245事業所)、A型事業所の平均賃金(月額)は91,451円(対前年比105.4%、4,220事業所)でした。同資料では令和5年度のB型実績が23,053円から22,649円に修正された旨も注記されています(令和8年3月追記)。


さらに重要なのが地域差です。同資料の都道府県別データ(令和6年度・B型)では、徳島県30,231円、福井県30,022円、島根県29,304円が上位である一方、山形県19,621円、大阪府19,747円、秋田県20,221円といった水準の県もあります。ちなみに埼玉県は21,528円、神奈川県は23,307円、東京都は24,283円です。全国平均だけを目標にするより、自県の平均と工賃向上計画の目標値を見て設計するほうが実務的です。


平均工賃月額の計算方法は令和6年度に変わりました


上記留意事項通知では、平均工賃(賃金)月額の算定方法が次のとおり示されています。


・ア:前年度における工賃支払総額を算出する

・イ:前年度における開所日1日当たりの平均利用者数(延べ利用者数÷年間開所日数)を算出する

・ウ:ア÷イ÷12月により、1人当たり平均工賃月額を算出する


これは令和6年度障害福祉サービス等報酬改定で見直されたもので、従来の「工賃支払対象者数」を分母とする方式から、「一日当たりの平均利用者数」を分母とする方式に変わりました(障害特性等により利用日数が少ない方を受け入れる事業所への配慮が理由とされています)。分母が変わると平均工賃月額の見え方も変わるため、過去年度と単純比較して一喜一憂しないことが大切です。


生産活動でよくある失敗と対策


失敗1:単価の安い仕事に依存している


内職の袋詰めや軽作業だけで工賃を積み上げようとすると、どれだけ作業時間を増やしても頭打ちになります。工賃の原資は「収入-経費」ですから、単価が低い仕事は、そもそも原資が薄いのです。


対策は、単価の異なる仕事を意図的に組み合わせること。たとえば、

・安定した数量が見込める「土台の仕事」(歩留まりの読める軽作業)

・粗利率の高い「稼ぐ仕事」(自主製品、受託加工、清掃・軽作業のうち人手不足で単価が付くもの、データ入力等)

・季節・スポットで入る「上乗せの仕事」

の3層で持つ考え方です。1件ごとに「時間当たりいくら残るか」を出し、単価の低い仕事は継続の可否をデータで判断します。なお、事業所の設備・人員体制で対応可能な範囲を超える受注は、支援の質を損ないます。無理な受注は避けてください。


失敗2:受注先が1社に偏っている


「大口が1社あるから安心」は、その1社の都合で工賃が半減するリスクと表裏一体です。取引先の内製化、担当者の異動、景気変動、いずれも事業所側ではコントロールできません。


対策は、売上構成比の上限をあらかじめ決めておくことです。たとえば「1社あたり売上の30%まで」といった社内ルールを作り、超えたら新規開拓に動く。取引先ごとの売上構成比を毎月グラフにして会議で見るだけでも、依存に気づきやすくなります。加えて、契約書・発注書で数量や単価改定の条件を明確にしておくと、突然の減額に対して交渉の土台ができます。


失敗3:原価管理をしていない


「その作業、いくらで請けているか」は答えられても、「材料費・運搬費・職員の関与時間を差し引くと、いくら残るか」は答えられない事業所は少なくありません。原価が見えないと、赤字の仕事を善意で続けてしまいます。


「就労支援の事業の会計処理の基準」は、まさにこの点を重視しています。同基準は、就労支援事業では就労支援事業収入から必要な経費を控除した金額を工賃として支払うこととされているため「適正な利用者工賃の算出をするため、製品製造過程等における適切な製造原価等の把握が必要となる」とし、原価管理の重要性が増大していると述べています。実務上は、就労支援事業別事業活動収支内訳表に加え、その明細表として就労支援事業製造原価明細表、販売費及び一般管理費明細表を作成することとされています。


対策としては、まず仕事ごと(品目ごと)に、材料費・外注費・運搬費・消耗品費を分けて記録することから始めます。細かい原価計算の様式や勘定科目の扱いは法人形態や自治体の指導によって運用が異なるため、税理士や指定権者に確認しながら整えるのが安全です。


失敗4:利用者の特性と作業のミスマッチ


工程が複雑すぎる、逆に単純すぎて集中が続かない、感覚刺激が強い環境で作業させている——こうしたミスマッチは、品質不良・納期遅れ・離職につながり、結果的に受注も失います。


対策は、作業の「分解」と「割り当て」です。1つの仕事を複数工程に分け、工程ごとに必要な力(持続時間・精度・立位/座位・対人の有無など)を書き出し、個別支援計画のアセスメントと突き合わせます。治具(じぐ:作業を正確・簡単にするための補助具)や手順書の写真化で、できる工程を増やす工夫も有効です。なお、体調や服薬に関する判断は医療の領域です。当事務所を含め福祉・法務の専門職が助言できる範囲ではありませんので、主治医や医療機関にご相談ください。


失敗5:営業に人手を割けない


「仕事さえあれば工賃は上がるのに、営業に出る人がいない」——現場から最も多く聞く声です。職業指導員・生活支援員は基準上の人員配置がありますから、支援を回しながら新規開拓まで担うのは容易ではありません。


対策は3つあります。

・役割を明確にする:誰が何時間、開拓に使うかを勤務シフトに先に埋め込む

・接点を作り置きする:自主製品のパンフレット、作業実績(対応可能な工程・数量・納期)を1枚にまとめ、渡せる状態にしておく

・外部の力を使う:自治体の共同受注窓口や商工団体、企業の担当窓口へのアプローチ、営業を外部に委託するなど


なお、B型の加算の中には工賃向上計画の作成・提出や人員配置を要件とするものがあり(目標工賃達成指導員配置加算など)、体制づくりと工賃向上は連動しています。ただし加算の要件・単位数は報酬改定で変わり、自治体の運用も異なるため、算定の可否は必ず最新の報酬告示・留意事項通知と指定権者の手引きでご確認ください。


失敗6:給付費と生産活動収入を混同している


「訓練等給付費で赤字を埋めればいい」「生産活動の黒字を法人の運転資金に回そう」——どちらも危険です。


「就労支援の事業の会計処理の基準」は、指定基準において指定事業所等ごとに経理を区分するとともに、当該事業の会計とその他の事業の会計を区分すべきことが定められているとした上で、通常の事業所等では法人本部と就労支援事業の2つの経理区分を設けること等を求めています。区分して経理を行うことにより、利用者負担を伴う利用料収入と就労支援事業収入が各計算書において区分表示される、という趣旨です。


また同基準は、就労支援事業では収入から必要経費を控除した額を工賃として支払わなければならないことから「原則として剰余金は発生せず」としつつ、将来にわたって安定的に工賃を支給するため、または安定的かつ円滑に就労支援事業を継続するため、理事会の議決に基づき次の積立金を計上できるとしています。


・工賃変動積立金:各事業年度における積立額は過去3年間の平均工賃の10%以内、積立額の上限額は過去3年間の平均工賃の50%以内

・設備等整備積立金:各事業年度における積立額は就労支援事業収入の10%以内、積立額の上限額は就労支援事業資産の取得価額の75%以内


いずれも、当該年度の利用者賃金・工賃の支払額が前年度の支払実績額を下回らない場合に限り計上できるものとされ、積立金を計上する場合は同額の積立預金を計上してその存在を明らかにしなければならない、とされています。また、特定の目的以外への流用は認められません。


積立金の可否や様式は、法人形態(社会福祉法人・株式会社・NPO法人等)や自治体の指導で取扱いが分かれる部分があります。実際の処理は、最新の通知と自治体の手引き、顧問税理士に必ずご確認ください。


失敗7:記録・報告の不備


実地指導(運営指導)で指摘されやすいのが、工賃に関する記録と報告です。前述のとおり指定基準第201条第4項は、年度ごとの工賃の目標水準の設定、利用者への通知、都道府県への報告を求めています。留意事項通知でも、各事業者は毎年4月に都道府県に対し前年度の工賃(賃金)実績を報告することとされ、都道府県は提出された工賃実績等を広報紙、ホームページ、WAMNET等により幅広く公表することとされています。


対策は、「作る書類」と「残す記録」を分けて管理することです。

・作る書類:工賃向上計画、目標工賃、工賃実績報告、利用者への通知文

・残す記録:作業日ごとの出勤・作業時間、工賃計算の根拠、支払記録、受注・売上・原価の資料


工賃向上計画は、「『工賃向上計画』を推進するための基本的な指針」(令和6年3月29日障発0329第42号による一部改正)に基づき、都道府県の計画に沿って事業所ごとに策定する仕組みで、令和6年度からの計画は令和6~8年度が対象期間とされています。様式・提出期限・点検評価の方法は都道府県ごとに異なりますので、必ず自県の案内をご確認ください。


失敗を防ぐ「見るべき数字」3つ


複雑な管理会計は不要です。まずは次の3つを毎月見てください。


・仕事ごとの粗利(売上-直接経費)と、その仕事に使った延べ作業時間

・取引先別の売上構成比(1社集中になっていないか)

・平均工賃月額(前年度の工賃支払総額 ÷ 開所日1日当たり平均利用者数 ÷ 12月の考え方で試算)


この3つが並ぶと、「やめる仕事」「増やす仕事」「取りに行く仕事」が自然に見えてきます。数字は工賃向上計画の根拠資料にもなります。


FAQ


Q1:平均工賃月額が3,000円を下回るとどうなりますか。


A:指定基準第201条第2項は、利用者それぞれに対し支払われる一月当たりの工賃の平均額は三千円を下回ってはならないと定めています。下回った場合の具体的な取扱い(指導・改善計画の提出等)は指定権者の判断となりますので、状況が見込まれる段階で早めに自治体へ相談することをおすすめします。


Q2:全国平均の24,141円を目指すべきでしょうか。


A:令和6年度のB型全国平均は24,141円ですが、都道府県別では19,000円台から30,000円台まで幅があります(厚生労働省「令和6年度工賃(賃金)の実績について」)。まずは自県の平均と、自事業所の工賃向上計画に掲げた目標水準を基準にするのが現実的です。なお、工賃の水準は仕事の内容・利用者の状況・地域の受注環境で変わるため、特定の金額が保証されるものではありません。


Q3:生産活動が赤字のとき、給付費で工賃を払ってよいですか。


A:会計は区分することが求められており、「就労支援の事業の会計処理の基準」でも就労支援事業とその他の事業の会計を区分すべきことが前提とされています。赤字の穴埋めの可否や具体的な会計処理は、法人形態や自治体の運用によって取扱いが分かれます。自己判断せず、最新の通知・自治体の手引きを確認し、指定権者や顧問税理士にご相談ください。


Q4:原価管理はどこから始めればよいですか。


A:まずは仕事(品目)ごとに、売上・材料費・外注費・運搬費・消耗品費と、作業に要した延べ時間を記録するところからで十分です。「就労支援の事業の会計処理の基準」では、就労支援事業製造原価明細表や販売費及び一般管理費明細表の作成が示されていますので、そこに接続できる粒度で記録を残していくと、後の作業が楽になります。


Q5:受注開拓は外部に頼んでもよいのでしょうか。


A:受注先の開拓そのものは、事業所が外部の協力を得て行うことも一般的です。ただし、契約内容や個人情報の取扱い、支援体制で対応できる受注量かどうかの見極めは事業所側の責任です。自治体によって共同受注窓口などの支援策が用意されている場合もありますので、あわせて確認するとよいでしょう。


まとめ


工賃は「売上-経費」でしか生まれません。だからこそ、単価・受注先の分散・原価・特性とのマッチング・営業体制・区分経理・記録という7点は、どれも工賃に直結します。制度面(指定基準第201条、留意事項通知、工賃向上計画、会計処理の基準)は一次情報を確認し、判断に迷う部分は最新の通知と自治体の手引きで必ずご確認ください。


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※本記事は制度の一般的な解説であり、個別の判断を保証するものではありません。工賃や受注の成果を保証するものでもありません。会計処理・加算算定・様式等は年度の改定や自治体の運用により異なりますので、最終的な取扱いは最新の通知および指定権者(都道府県・指定都市・中核市)の手引きをご確認ください。


【参考にした一次情報】

・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第192条・第201条(e-Gov法令検索)

・厚生労働省「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について」(平成19年4月2日障障発第0402001号/最終改正 令和6年3月29日障障発0329第7号)

・厚生労働省「令和6年度工賃(賃金)の実績について」

・厚生労働省「就労支援の事業の会計処理の基準」

・厚生労働省「『工賃向上計画』を推進するための基本的な指針の一部改正について」(令和6年3月29日障発0329第42号)

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